土砂崩れの続き
呼び出しの連絡を受けて家を出た頃はまだまだ雨も激しく、ワイパーを最速で回しながら車を走らせた。その後、職場に到着した夜9時半には小降りになっていた。
事務所に入ると、すでに多数の職員が来ていた。1人、また1人と、他部署の職員とともに現場に出かけ、帰ってくる。そんな中、僕が現場に行くように言われたのは11時頃だった。土砂崩れの復旧作業。4人で車に乗り込んだ。この時点で雨はほとんど止んでいた。また、ネットで見た雨雲の分布状況を見ても、もう雨は降らないだろうという情報が出ていた。
現場に着いた時には空に星が見えていた。両側を山に挟まれ、その間を川と坂道が平行している場所。道はバスも通る片側1車線、典型的な山中の道だ。道路に近い方の山が崩れ、土砂が道路上にある。幸い、道の先が見えないような大きな崩れ方ではないが、車の通行には危険だ。現場の200mほど下にあるゲートを一時的に下ろして通行止めにした。
この先にも崩れている現場があるといけないので、2人はトラックに乗ったまま坂を上る。残る2人で除去作業を始めるが、灯りはゲート付近の小さな街路灯一つだけ。装備もヘルメットに長靴程度で、ヘッドライトはない。
すぐ隣を流れている川の幅は10mくらいだろうか。普段の様子は知らないがかなり増水していることは音だけでもわかる。いや、暗いので判断材料は音しかない。大きな岩を運んでいる音がする。会話には大きな声が必要だ。
時折、ゲートの手前で車が停まる。その度に1人はゲート付近に行かなければならないので、真っ暗な中、僕1人が現場に残される。スコップでの地道な除去作業。大した量でない割には土砂が重い。さらに、崩れた場所からは水が流れ続けている。水は結構な勢いで、除去作業のために足を置くとぶつかった水が長靴の中に入ってくる。この水が道路を斜めに広がりながら横切って、ガードレールの下をくぐって川に落ちていく。うっかり足を滑らせるとガードレールの下に引き込まれそうだ。
こんな状態でも通ろうとする一般車がいる。しかも山道のカーブを結構な勢いで下ってくる。何を考えているのだろう。
トラックが帰ってきて4人で作業を続ける。除去といっても土砂を置く場所がないので、川に落とすことになる。崩れた場所から流れる水と同じ方向にスコップで土砂を運ぶと、勢いに乗って余計に転がすことができる。それでも積もった土砂は硬い。また、重い。今思うと水の抵抗もあったと思うが、そんなことを考える余裕などなかった。
とにかく水が出続けている。携帯電話も入るかどうかという地域、周囲に人家もなく、トラックの灯りが頼りだ。こんな場所でさらに崩れてきたらどうしようもない。確かに雨はだいぶ前から止んでいる。でも、山は何が起こるかわからない。正直、怖かった。
もちろん、大丈夫だという判断があったからこそ、4人1台だけで現場に行かせたのだとは思う。ただ、それは結果論かもしれない。
一番大きな土砂の塊を除去した段階で、携帯電話で連絡を取る。「建設会社の方が現場に着いたら交代して、道路を一周しながら戻って来るように」という指示があった。やがて建設会社に仕事を引き継ぎ、山道を一周して被害状況を確認しながら可能なところは通行止めを解除し、山を下って帰ってきた。
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